平成30年度 東京都立西高校 推薦選抜にもとづく作文問題―解答への導き&模範解答―
平成30年度 東京都立西高校
推薦選抜にもとづく作文問題
次のことばについて、あなたが感じたり
思ったりすることを六百字以内で述べなさい。(50分)
「問題を出さないで答えだけを出そうというのは不可能ですね。」
(岡潔)
解答例
解答への導き
H29年度の「世界は『のっぺらぼう』である」(西江雅之)という文章よりは、取り組みやすい問題だったと思います。
岡潔は、日本を代表する数学者です。多変数複素関数論という分野において大変な功績を残しています。また、『春宵十話』などの随筆も多く残しており、彼の考え方や生き方に触れることができます。出題されている言葉は、人間的魅力にもあふれた懐の大きなこの数学者が、評論家の小林秀雄との対談(小林秀雄、岡潔『人間の建設』新潮社)のなかで言った言葉です。
この対談の中では当然文脈があり、岡がこの言葉で言わんとしていることがすぐわかります。
しかし、試験では文脈なしにこの言葉だけがポンと出されるわけですから、この言葉を自分なりに解釈していかなければいけないのは、西高校の推薦入試作文のもう伝統ですね。まずは、この言葉を解釈することから始めましょう。
ステップ1 課題文を解釈する
「問題を出さないで答えだけを出そう」……たしかに、言葉どおりに受け取れば、
問題が出されなければ答えが出るはずもありません。大数学者である岡が、そんな当たり前のことを言うはずがありません。そこでまず、岡の言葉のここに注目してみましょう。
「答えだけを出そう」
昨今、日本では「結果=答え」を出すことのみを評価する傾向にあり、企業などでは結果を出す実力を持った人が評価される「成果主義」を採用するところも増えました。しかし、適切な課題や問題を見出さなければ、「結果=答え」は出ません。たとえば、試験勉強のときに、
指定の試験範囲とは異なる、間違った問題を解いていたら、試験で結果は出ませんね。
あるいは、英語のテストの点数が悪いとき、「どうして英語の点数が伸びないのか」という問題/課題よりも、「自分が点数を取れていない長文の問題で得点するにはどうしたらいいか」
という問題/課題の立て方のほうが具体的であり、対策がしやすくなるため、結果を出すことができます。こうした例をもとに、岡の言葉を考えてみてください。
岡が言っているのは、
「適切な課題/問題を出していないのに、
答え=結果を求めるなんてことはできない」
というように解釈することができます。
ステップ2 解釈にもとづいた自分の主張を行う
以上のように、岡の言葉を解釈できたら、岡の言葉を受けて、自分の主張を考えていきましょう。模範解答では、答えを出すことを追い求めるばかりではなく、そもそも「問いそのものを立てることが重要である」という主張を行っています。
どのような主張を行うかを考え、なぜそのように考えたのか、理由を説明しましょう。また、どのような主張をしても構いませんが、その主張を行う理由・根拠を説明する必要があります。
小論文/作文では、何かを主張したら必ずセットでその理由・根拠も述べるようにしましょう。
ステップ3 主張についての具体例を挙げよう
自分がしようと考えている主張を的確に示す例を考えましょう。独創性というのは、ここで表現します。独創性というと、「誰も考えつかないような素晴らしい考え」や「これまでになかった考え」を示さなくてはいけないと考える生徒が多いようです。こうした考えに振り回されて、突飛な考えや奇をてらった考えを書いてくる生徒がよくいます。しかし、小論文/作文で表すべき独創性とは、そうではありません。
自分の主張に対して、自分が考えた適切な具体例を示すことが独創性なのです。
具体例については、いろいろなことが考えられます。したがって、自分独自の例を挙げることが独創性を表現することになるのです。そして、重要なことは、自分の主張をきちんと体現する具体例を示すことです。何を示すための例なのかを考えて、主張を支持する例を挙げましょう。
模範解答では、「AIに対する問いの立て方」を例として挙げることで、主張を例証しています。以上の3ステップを踏まえて、最後に簡潔な結論を述べれば、模範解答のような答案ができます。
参考までに
小論文対策として、この課題の小論文を書いていない受験生は、以下の文章を見ないほうがいいです。岡の言葉が出てくる文脈がわかってしまうからです。この課題文の岡の言葉が出てくる箇所を引用しておきます。
岡:
フランスへ行きましたのが一九二九年から一九三二年、そのころまでは数学のなかのどの土地を開拓するのかということはきまっていなかったのです。フランスに三年おりました間に、その土地を決めた。土地を選んだということは、私に合った数学というものがわかっておったのでしょうね。そこまでいくと、はっきりした形では言えませんが、以後三十年余りその同じ土地の開拓をやっているわけです。
小林:
それはどういうことですか。
岡:
その当時出てきていた主要な問題をだいたい解決してしまって、次にはどういうことを目標にやっていくかという、いまはその時期にさしかかっている。次の問題となるものを作っていこうとしているわけです。
小林:
今度は問題を出すほうですね。
岡:
出すほうです。立場が変わるのです。中心になる問題がまだできていないというむつかしさがあるのです。
小林:
ベルグソンは若いころにこういうことを言っています。問題を出すということが一番大事なことだ。うまく出す。問題をうまく出せば即ちそれが答えだと。この考え方はたいへんおもしろいと思いましたね。いま文化の問題でも、何の問題でもいいが、物を考えている人がうまく問題を出そうとしませんね。答えばかり出そうとあせっている。
岡:
問題を出さないで答えだけを出そうというのは不可能ですね。
以上のような文脈で、岡の言葉が発せられているわけです。ベルグソンというのはフランスの哲学者です。ベルグソンの言葉を小林が紹介して、それに応答する岡の言葉なのです。小林が紹介するベルグソンの言葉「問題をうまく出せば即ちそれが答えだ」を、いくぶんひねって表現した非常に示唆的な言葉です。ここを出題してくる西高校出題担当者の方、いつかお話してみたい(笑)。上から目線で申し訳ないですが、素晴らしいセンスです。こんな先生方に教わることのできる西高校の生徒は、羨ましいなぁと思います。
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